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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)119号 判決

原告 杉本萬寿男

原告 杉本カズ子

右両名訴訟代理人弁護士 永田圭一

同 長沢喬

第一、八〇五号事件被告 共栄工業株式会社

右代表者代表取締役 中尾仁司

第一一九号事件被告 有限会社共栄鉄工

右代表者取締役 岩本熊夫

被告両名訴訟代理人弁護士 亀山幸良

主文

一、被告共栄工業株式会社は、原告らに対し、別紙目録(一)(二)の各建物を明渡し、かつ、昭和三八年一月一日から明渡済まで月金二八、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

二、被告有限会社共栄鉄工は、

1、原告杉本萬寿男に対し、別紙目録(一)の建物を明渡し、かつ、昭和三八年三月一日から右明渡済まで月金一二、一〇二円の割合による金員を支払え。

2、原告杉本カズ子に対し、同目録(二)の建物を明渡し、かつ、昭和三八年三月一日から右明渡済まで月金一五、八九八円の割合による金員を支払え。

三、原告らの、被告有限会社共栄鉄工に対するその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

五、この判決は、原告らにおいて、被告らに対し共同で金三〇万円の担保を供するときは、その勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、原告ら訴訟代理人は、主文第一項と同旨および「被告有限会社共栄鉄工(以下被告共栄鉄工という)は、原告萬寿男に対し別紙目録(一)の建物を、原告カズ子に対し同(二)の建物を各明渡し、かつ、原告両名に対し、昭和三八年三月一日から明渡済まで月金二八、〇〇〇円の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに、被告共栄鉄工に対する請求部分につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め(た。)≪以下事実省略≫

理由

第一、(被告共栄工業に対する請求について)

一、被告共栄工業が、昭和三四年一月一日、原告ら先代から、本件建物を原告主張のような約定で賃借したこと、同年末に賃料が月額二八、〇〇〇円に増額されたことは、当事者間に争いがない。しかして、同年三月二七日以降原告らが、共同で、右賃貸借契約の賃貸人の地位を引き継いだことは、同被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

被告らは、右賃貸借契約は実質上期間の定めのないものであると主張するが、これを確認するに足りる証拠はない。

二、そこで、原告ら主張の、更新拒絶による契約終了の点につき判断する。

(一)、≪証拠省略≫によれば、原告側では、昭和三七年三月頃から、賃料を支払いに来る事務員を通じて、被告共栄工業に対し、防火上の理由および自己使用を理由に、同年末の期間満了後直ちに本件建物を明渡してほしい旨を、度々申入れていた事実が認められる。≪証拠判断省略≫また、原告らが、同被告に対し、昭和三八年一月二五日付書面で、本件建物の継続使用に異議を述べ、右書面がその頃同被告に到達したことは、被告らにおいて明らかに争わないところである。

(二)、よって、右更新拒絶の正当事由の有無につき検討するに、≪証拠省略≫を総合すると、「本件建物は、被告共栄工業およびその前身の共栄ミシン株式会社(いずれも実質上被告共栄工業代表者中尾仁司の個人会社である)が、昭和二五年頃から賃借してきていたものであること、同被告は、本件建物を、昭和三六年頃までミシンの組立工場として使用していたが、同年頃、原告らに無断で、建物内部の間仕切を取り除く等の改造(なお、同被告は、このほかにも数回に亘って改造をし、計約一五〇万円を費やした)をなし、鋼材の熔接工場として使用し始めたこと、そこで原告らはこれについて中尾に抗議したが、同人から『殆んど改造も済んでいるから勘弁してくれ』と宥恕方を懇請されたので、やむなくこれを了承したこと、しかし、その後、近隣の者から、熔接の火花がとぶので火災の危険があるとか、騒音がひどいとかの苦情が出るようになったこと、原告らは、各自居住する家屋を他に有しており、本件建物の返還を受けたときには、その敷地(これも原告ら所有である)上にモータープールを開設して利潤の増加を図るつもりであること、原告らは、いずれも毎月の収入が四、五万円あること、一方、被告共栄工業は、従業員二十二、三名を使用して営業していたもので、本件建物を明渡すと営業を続けることができず、従業員の生活にも重大な影響が及ぶような状態であったこと」以上の事実を認めることができ、これを左右する証拠はない。

(三)、ところで、原告らは、更新拒絶の正当事由の一つとして、被告共栄工業の不信行為ならびに公共の安全を主張するのであるが、右認定事実によれば、建物内部の無断改造については、原告らも結局これを宥恕しているのであるし、また、使用目的の変更や、それに伴う出火の危険性等についても、前判示の近隣から苦情が出た事実のみでは、それが、賃貸借契約の継続に重大な影響を及ぼすものとは断じがたい(なお、証人杉本喜代子は、被告共栄工業から小火を出したと供述するが、その時期等についても明確でなく、にわかに措信しがたい)のみならず、成立に争いない甲第二号証(継続使用に異議を述べ明渡を要求する書面)の記載に徴しても、原告らの本件建物明渡請求の主たる理由が、自己使用の点にあったことが窺われるのであって、これらの事情に鑑がみると、本件にあっては、右被告の不信行為ならびに公共の安全の点は、正当事由を根拠づける資料としては低く評価せざるを得ない。

次に、原告らの自己使用の必要性の点であるが、前判示の事実からすると、原告らは一応安定した生活を営んでいるものであって、本件建物明渡請求の目的が自己使用とは言っても結局これを利用して利潤の増加を図るにあり、これを現在のように賃貸して利潤を得るのと本質的に径庭がなく、かつ、直ちに右利潤の増加を図らなければならぬ程の差迫った事情も窺えないのに反し、被告共栄工業の方は十数年に亘り本件建物で営業を続けてきたもので、多額の費用を投じて改造を施し、相当数の従業員も使用しており、本件建物を必要とする度合は、原告らに比べてはるかに大きかったものと考えられる。

(四)、以上の諸点を総合して考慮すると、本件更新拒絶申入当時から期間満了当時までの状況においては、引き続き被告共栄工業に本件建物の使用を継続せしめるのが相当であって、更新拒絶の正当事由は存しなかったものと認めるべきで、しかるときは、本件賃貸借契約は、昭和三八年一月一日から更新されたことになり、同三七年一二月末日をもって契約が終了したことを前提とする原告らの請求は失当である。

三、次に、無断転貸を理由とする契約解除につき判断する。

≪証拠省略≫によれば、被告共栄工業は、昭和三八年二月中旬頃から、原告らに無断で、本件建物を被告共栄鉄工に使用占有せしめていることが認められる。≪証拠判断省略≫

被告らは、両被告が実質的に同一である旨主張するのであるが、右諸証拠によると、「被告共栄工業は、昭和三八年初め頃倒産したが、その債権者らが協議の上、債権回収の方法として、被告共栄鉄工を設立し、被告共栄工業から引渡をうけた機械類をこれに貸与し、従業員もそのまま引続いて使用して営業を続けさせ、その収益を債権の弁済に充当していること、右被告共栄鉄工の実際の営業面には中尾仁司があたっているが、役員はすべて被告共栄工業の大口債権者であること」が認められ、右事実によれば、両被告の関係は、単に営業上の都合で名称や組織(株式会社から有限会社へ)を変更したようなものではないことが明らかで、被告共栄工業が中尾仁司の個人会社であった(このことは前述二、(二)で説示のとおり)のに反し、被告共栄鉄工の支配権は共栄工業の債権者が握っているもので、実質的な経営主体も両者異なっているから、両者を同一体とみることは到底できない。したがって、被告共栄工業から被告共栄鉄工への転貸の事実を否定することはできないのみならず、右諸事実によれば、本件転貸が、賃貸人に対する背信行為にならず解除権を生ぜしめない特段の事情がある場合に該るということもできない。」

しかして、原告らにおいて、右無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除する旨、本訴における昭和四一年二月三日付準備書面をもって、被告共栄工業に対し意思表示し、同日右書面が同被告に到達したことは、被告において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そうすると、本件契約は、右同日をもって解除により消滅したものであるから、被告共栄工業は、原告らに対し、賃貸借契約終了にもとづく賃借物返還義務の履行として、本件各建物を明渡し、かつ、昭和三八年一月一日から同四一年二月三日までの未払賃料、および同月四日から明渡済まで賃料相当の遅延損害金(いずれも月金二八、〇〇〇円の割合)を支払う義務がある。

第二、(被告共栄鉄工に対する請求について)

原告萬寿男が本件(一)建物の、原告カズ子が本件(二)建物の、各所有権を有することは、被告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、また被告共栄鉄工が昭和三八年二月中旬頃から、本件各建物を使用占有していることは前説示のとおりである。しかして同被告が被告共栄工業より原告らに無断で本件建物を転借したことは前示のとおりであるところ、他に、被告共栄鉄工の本件建物占有権限についての主張立証はないから、同被告は本件建物を不法に占有しているものというべきである。そして、本件建物全体についての賃料月額金二八、〇〇〇円を、本件(一)、(二)建物の各延床面積の割合に按分して計算した結果によれば、本件(一)建物についての賃料相当損害金が月金一二、一〇二円、本件(二)建物についてのそれが月金一五、八九八円となることが認められる。

そうすると、被告共栄鉄工は、原告萬寿男に対し本件(一)建物を、原告カズ子に対し本件(二)建物を、各明渡し、かつ、不法占拠の後である昭和三八年三月一日から、右各明渡済まで、原告萬寿男に対しては月金一二、一〇二円、原告カズ子に対しては月金一五、八九八円の各割合による賃料相当損害金を支払う義務があるが、同被告に対し、右月額を超える割合の賃料相当損害金の支払を求める原告らの請求部分は、理由がなく失当である。

第三、よって、訴訟費用の負担につき、民訴法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 高野耕一 柴田和夫)

〈以下省略〉

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